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読書感想文

唐突だが、途中から評価を入れることにする。
作者名の横にあるのがそれで、
「う」が一つ星。
「うな」が二つ星。
「うなぎ」が三ツ星に相当すると思ってください。
上記は客観評価であり、それとは別に
個人的お気に入りには「∈(゚◎゚)∋」←のうな印をつけます。
つまり「うなぎ」はよくできてるけどあんま気に入らない作品。
「う ∈(゚◎゚)∋」は出来は悪いが好きな作品。
ということです。
もちろん「うなぎ∈(゚◎゚)∋」が最高評価ですが、
あまりにすばらしい作品に出会ったらうな印がいっぱいつくかもな。
「∈(゚◎゚)∋う∈(゚◎゚)∋な∈(゚◎゚)∋ぎ∈(゚◎゚)∋」みたいに。
逆につまらなさそうですね。

 傀儡后 牧野修   う

 長編SF。02年の日本SF大賞受賞作。
 SF大賞らしいので、じゃあちっと見てみるべえかあ、と読んでみたが、なに? SF大賞ってのはあれか? やたら設定が入り組んでいればそれでいいのか? 04年の受賞作はイノセンスだし。イノセンスにあげるかなあ、SF大賞。パパはよくわからんよ。
 で、よくわからんということで、この傀儡后。よくわかりませんでした。
 いや、力作だよ。とても力作だったと思うよ? でも云ってる意味がさっぱりわからねえよ。いや、途中ね、お、もしかして面白いんじゃないかこの作品、と思った瞬間もあるんだよ。人間がゼリー状になってしまう麗腐病とかさ、街をテキストとして認識してしまう街読みとかさ、いい設定もあったよ。
 でもなんつうかこう、この人の文章ってわかりづらいし、入り込みづらい。主役の不在っぽさもそれを助長している。やっぱね、長編になると作中に一人くらいは信じられる人物が欲しいわけよ、ぼくとしては。謎の少年・七道桂男も、最初は雰囲気出してたわりにはさっぱり出番がなくて強引にオチがついてげんなり。
 そもそもあれか? 隕石が落ちてきて、地下に眠る謎のなんたらが目覚めて地球が進化して、最後、人類がみんなゼリー状の皮膚に溶けちゃって、壮大な感じでエンドって、これはエヴァンゲリオンか? SF大賞つながりで。じゃああれか、傀儡后は綾波レイか。って、傀儡后ってネーミングと綾波レイってイメージ的にすんなりイコールにできるね。
 じゃあこの作品はエヴァンゲリオンだったということで。
 それにしてもあれだね、SF大賞って奴はまったくあれだ。
 いやあ、最初にね、その存在を知ったのは神林長平の「言壷」がSF大賞を受賞したときだったわけよ。この「言壷」ってのはもう、すごい名作でね。魅力的な設定の数々と一つ一つの話のまとまりのよさ、カッコよさ、加えてやはりラストの「我、勝てり」これにもうすっかりいかれてしまったわけで、読み終わったときは小一時間ほど無駄に興奮して家中をうろつきまわったりしたものでした。まる。
 で、その直後くらいに読んだ筒井康隆の「朝のガスパール」、これも良かった。パソコン通信の時代にしてすでにここまで実験的にネットを駆使した作品があるとは。新聞連載とネットと現実と小説内の多次元と小説内の作者とが珍妙に混じりあいいい具合にこっちを翻弄してくれて、いやあ、筒井先生にはかなわんわい、と思ったこの作品もSF大賞をとっているらしいと随分あとになって知る。
 このあたりから「おや、SF大賞って、もしかしていい作品が受賞してる?」と思ってた頃に読んだのが新井素子の畢竟の大作「チグリスとユーフラテス」。
いかにも新井素子的な手癖はあるが、火の鳥的な壮大さと人間の感情がもつれあい、感動のラストまで一気に読ませる新井素子随一の名作で、これは出たばっかの頃に読んで、その年のSF大賞になった。
 これでもう、なんかSF大賞ってのはいい作品が多いらしい、と思い、翌年ネット環境がそろったときに検索してみたわけですよ、SF大賞を。
 そしたらまあ大原まり子の「戦争を演じた神々」も受賞している。確かにあれは意味はわからなかったがえらいエネルギーのある作品で、意味がわからなかったせいで俺の頭には残らなかったが名作げな雰囲気を発していたよ、と納得。
 夢枕獏の「上弦の月を食べる獅子」も受賞している。あれもまた結局なんだったのかよくわからないところも多かったし、獏のバイオレンスワールドにはついていけない面もあったが、宮沢賢治と崑崙とを絡めた幻想的な話は圧倒的なパワーをもっていて、読んでいるとき、無性に「おれはいますごいものを読んでいるんじゃないか」的な感覚に陥ったものだったよ。結局、意味はわからなかったんだけどさ。
 そんなわけで、SF大賞は「どうやらいい賞」という認識の出来た俺は、ぼつぼつSF大賞を読み出したわけですよ。
最初に読んだのは2001年の「かめくん」で、これはまあ、やらんとしていることはわからいでもないが、やっぱり曖昧すぎるし、いろんな意味でやりすぎじゃないか? と思った。(のち、同作者の「ざりがにまん」「いか星人」を読んで、かめくんはまだわかりやすかったのだと知る)ここらでSF大賞に疑問を持ったが、同年に候補になった「ΑΩ」は面白く、やはり信憑性がある、と自分に言い聞かせる日々でした。
 疑いをもったのは、やはり梶尾真治の「サラマンダー殲滅」でしたかね。いやあ、これがまたつまらなかった。そんなことを云ってはいけないと思うのだが、つまらなかった。多分、おれはこの人と気が合わないんだろう。代表作である「エマノン」シリーズのセンチメンタリズムも俺にはピンと来ないし(七瀬シリーズのできそこないに思えた)「黄泉がえり」とかも(読んでないけど)あらすじ聞くだけで「それってどうよ?」とか思うし、唯一「ドグロマグロ」だけ面白く読めたのは、明らかにおれが元ネタである「ドグラマグラ」が大好きだからだし、要するにこの人とは趣味が合わない、うんそういうことなんだろう、とその時は自分を納得させたものでした。
 納得させたものでしたが、同時にこの頃からエヴァンゲリオンやガメラ2もSF大賞を受賞しているという事実が気になりだしたりもした。SF大賞か? あれは。ヒットしたという意味でエヴァンゲリオンはまだいいとしてガメラ2って、いいのかホントに?(観たことないけど)
 そういう疑惑にかられながら読んだ宮部みゆきの「蒲生邸事件」
 寝た。
 つまり読破してない。すまん。この頃はまだ宮部みゆきを読んだことがなかった。その実力も知らなかったし、実力のわりには俺の心に響かない人だというのも知らなかった。高卒だということも知らなかった。別にバカにしているわけではないけれど。でも寝た。読めなかった。時期的にミステリー離れしていたのも悪かったのだろう。でもだるくて寝た。それだけが事実だった。
 この頃、昔「帝都物語」を一巻だけで挫折したことを思い出し、さらなる不安にかられる。
 そんな中で昨年読んだのが03年の受賞作、マルドゥック・スクランブル。この作品、敢えて云うなら、隣の道路をものすごい勢いで走り去っていた大型トラックのようなものであった。荷台からマグロの一匹や二匹を落としながら走っていた。多くは語らない。が、おれはそのトラックには載せてもらえなかったようだ。正直、あんまり乗りたくもなかった。
 そして今回、傀儡后、なによりもイノセンス受賞。
 どうやらぼくとSF大賞の間にあったと思われた深い絆は、ただの幻だったようでした。
 そもそもぼくは早々に気づくべきだったのだ。今の日本で年に一冊もすぐれたSFが出るはずがない、と……
 だからぼくは、もう恋なんてしない、なんて云わないよ絶対、じゃなくて、もう日本SF大賞を信じるのをやめようと思う。「日本SF大賞」で検索すると三件目に中島梓の悪口があるし。
 そんな「SF大賞とおれ」というエッセイになりながら、だるっぽく終わらせてみる。


 完全無欠の名探偵  西澤保彦   うな

 ミステリー。連作形式の長編。
 まあ、あれだね。狙いはわかるよ。その形式、おれも好きだよ。素敵だよ。
 でもまあ、結果としては、よくできたつまらない力作、といったところでしょうか。
 いや、だって実際によくできてるし力作だし、でもつまらなかったんだもん。
 こんな俺を、みんな許せよ。


 ダディフェイス  伊達将範   うな

 ライトノベル。長編。なんか宝捜しとかオーパーツとか色々。
 気の弱い貧乏大学生である主人公のもとに突然現れたのは、八歳のときに生まれたという実の娘。しかも少女は凄腕のトレジャーハンター。その双子の弟は大財閥の御曹司でかつ超能力者。襲う敵は人畜非道な遺跡荒らしと、遺跡から蘇った鬼に、不死身となった竹取の翁。しかし主人公もまた、最強の格闘技、九頭竜を習得した無敵の格闘家だったのです……という、なんだかつめこめるだけ詰め込んでみました、みたいな話。
 しょっぱいかって云えばしょっぱいし、恥ずかしいかって云えば恥ずかしいのだが、存外に遺跡やオーパーツのことが的確に書いてあり、全部宇宙人のせいにした超展開も含め、展開は悪くない。
 が、宇宙人の血を引く大財閥の超能力者って「痕」かい、そりゃ? と思ったが、作者は「To Heart」のノベライズもしているみたいなので、痕だったのでしょう。ひじ。きっと細かく色々パクッていることでしょー。が、その中でも一番光っていたのは、ヒロインが主人公に惚れた理由。「昔、ヒロインが高いところから落ちる時に主人公がかばって、切り株の上に落ちて大怪我をした」って
空のキャンバス、キタワァー*・゜゜・*:.。゜(n‘∀‘)η゜・*:.。゜゜・*. ...
 じゃあ、総じて神様はサウスポーって事で一つ。


 同姓同名小説  松尾スズキ   うなぎ∈(゚◎゚)∋

変な短編集。
芸能人を題材に、勝手な妄想を膨らませて「いや、同姓同名の人ですよ」的な作品。
いや、面白かったよ。
特にみのもんたが良かった。
公園で薀蓄語りながら犬の額を押してるみのの姿は理不尽なのに異様に想像できてしまう。「わりといいから聞いてみそ」とエニグマのCDとか持ってくるのとか。ホワイトロリータ投げたりとか。なんかみのじゃないけど、みのだよね。「みののことを知らないあんたって人がみのは随分好きだよ」って台詞とか妙に好き。
あとはまあ、広末とかも良かった。上祐の無駄な哀愁も良かった。「おれさ、あんたのこと、もう尊師って呼ばないから」云ってみてー! この台詞。なんかこの台詞を云うために上祐になってもいいかもとか思っちゃうよ。
それにしても無駄なところで芸が細かい人だよなあ。


 ナイフが街に降ってくる  西澤保彦   うな

ミステリー。長編。
完膚なきまでの佳作。
無理があるが、まあいいでしょう。ニアピン賞。みたいな感じ。


 禁涙境事件  上遠野浩平   うな

戦地調停士EDシリーズの第四弾。ファンタジーミステリー。
ある一つの特殊な都市を舞台に、時間軸をバラバラに、都市が発生してから起こった幾つかの事件が都市の崩壊へとつながっていく様を、EDの過去と絡めて描いている。
この作者、構成と設定はいいんだけど、文章とストーリーがいまいちなんだな。
そんなわけで、設定と、その都市の発生から崩壊まで、という構成はいい。
ストーリーは……んー、ミステリーとしてみたとき、ちょっとあんまりにもあんまりな気がするな、さすがに。前作までの設定やキャラクターをおれが忘れているのもなんだかなんですが。
最初は面白そうだったのに、後半に行くにつれてなんだかなあ。
この設定に見合ったストーリーの誕生を求む。

 ソウルドロップの幽体研究  上遠野浩平  うな

なんかよくわからんジャンルの少し不思議な話。
出版社がちがうからはっきりとは書いていないが、ブギポシリーズと同じ世界、同じ時間軸を持ったある意味外伝的な作品。ブギーポップに匹敵する謎の現象「ペーパーカット」にまつわる話、みたいなシリーズになるのか?
イマジネイターと伊東谷が死んでいるらしいので、時間軸的にはブギポ最新といったところか。出来としては、まあまあというか、いつも通りといったところ。設定と構成はよく、ストーリーはやや期待はずれ。
見るものによってちがう姿に映り、人の一番大切なものを奪うことによって魂を盗む「ペーパーカット」の存在は秀逸だが、やっぱりブギーとかぶりすぎ。
ところでアレだな。これ読んでて思ったんだが、この作者の魅力というか、世界観って、クトゥルー神話と相通じる部分があるんだな。
人々の世界では欲が入り混じりながらも、愛したり青春したりしながら必死に生きているのだが、世界の各地に不意にあらわれる絶対的な存在(ブギーポップやイマジネイター、ペイパーカット)に触れた瞬間、自由意思や命は奪われていく。恐怖からそれに抗おうとする者もいるが、すべての努力は無為に終わり、人間はただ絶対存在の争いに巻き込まれるのみの無力な存在である。という基本前提が、クトゥルーっぽい。そこがいいのかもしれん。


 方舟は冬の国へ  西澤保彦   う

長編ミステリー。
佳作……かな。決して出来のいい作品ではないなあ。設定はわるくないんだが、主人公たちが馬鹿すぎる気がするし、環境に順応しすぎだとも思う。ミステリーとしてみたとき、中盤の盛り上がりに欠けるし、最後に一気に設定を説明しすぎ。この作者のアベレージを考えると出来としてはいまいち。
んが、嫌いにはなれない。それはこの作者なりのロマンを感じるからだ。あまり共感できるロマンではないがそこにロマンがある限り、嫌いにはなれない。
結局、この人っていい奴なんだよな、ほんとに。


 しづるさんと偏屈な死者たち  上遠野浩平  うな

ミステリーっぽい体裁をとったライトノベル。短編集。
なんだろう、マリみてに対抗したのかライトレズ。憂鬱なる天才不思議病弱少女しづるさんの名推理に酔いしれればいいのかしら?属性多すぎ。
でも、正直この設定は悪くないと思うのよ。不治の病で入院しているためにアームチェアディテクティブにならざるを得ないという部分や、死を近しいものに感じているから死者の気持ちがわかるのだと部分。
「偉そうにしてないでお前が動けよ」と云いたくなる安楽椅子探偵というポジションを無理なくあてはめている。まあ、だから設定はいいんだよな、この作者。
で、じゃあ内容はというと、ミステリーとしては論外だよね。ただ、世にも奇妙な物語のようなシリーズだと思えば、悪くない。挿入される童話の存在意義はないような気もするが。
今後、刊行されるのかは知らんが、シリーズとして安定するなら、読んでいきたい感じ。

 鏡の中の世界  小松左京   うな

SF。ショートショート。
小松左京のショートショート。
それ以上の説明がいるのだろうか? なんつうか、小松左京のショートショート以外の何物でもない。ちょっと不思議だったりちょっと怖かったりちょっと頓知がきいていたりちょっとおセンチだったり、だから小松左京のショートショートだってば。
ただ、あれだな。「え? これで終わり? ここから始まりちゃうん?」とか思うような話もけっこうあり、こいつは本質的には長編作家なんだろうなあ、と思った。つうか小松先生をこいつ呼ばわりしてしまった。まあいいか。サスペンダーお似合いですよ。ホホホホホ


 題未定  小松左京   う

SF。長編。
小松左京の長編SF。それ以上でもそれ以下でもない。
……ごめん、ちょっと嘘。
新連載のタイトルが思い浮かばず「題未定」で連載を始めてしまったために、現実と作品世界、時間と時空が混雑し合い、さまざまな場所、時間へ飛ばされた小松左京本人が、いろいろあって歴史を守るお話。
けっこう昔の話なのにメタフィクションしてたり、定期的に入る捏造された編集者のほやきとか、ところどころにある無理くり感の強い「ダイミテイ」のもじりとか、小松左京の分身の名前とか、言葉遊びもしてたりするし、いろいろ詰まっているけど、そのわりに途中からあんまり面白くなかったのはきっと古代日本にぼくが興味ないから。
わりと企画倒れ感あり。そこもまた小松クォリティ。


 夢幻巡礼  西澤保彦  うな∈(゚◎゚)∋

ミステリー。長編。神麻嗣子シリーズ第四弾。
このシリーズ、なんかいまいちだなあ、ほのぼのの狙いが鼻につくなあ、と思っていたが、この作品は良かった。
つうのも、この作品はシリーズの外伝で、要するに「ラスボスができるまで」の話なので、ほのぼのさは無しの方向で、主人公は殺人鬼だし、ストーリーに救いはないし、作中ずっと主人公の偏見と家族への変質的な屈託と異常性欲だのを聞かされるし、陰鬱な話で、いままでのシリーズとのギャップと云ったらない。
そこが良かった。
つうか、殺人鬼の話って、基本的にツボなのね。殺し方をメインに見せるんじゃなくて、その内面の異常さを描いた作品。映画や漫画だと、映像がどうしてもグロになるが、小説だと絵面のインパクトよりもじくじくとした心理描写がメインになるから、そこがいい。
要するに、妖怪とかモンスターとして描かれているのがいいんだよな、殺人鬼が。人に近いけど、人ではない存在。人でなし。人間としての理性と知性を備えていながら、根本のところにある欠落。それが人間と化け物の間にある存在としての、ある種の悲しみと、一種のすがすがしさを生む。
つうわけで、なかなか楽しめた作品。
が、単品でみると、オチが弱めだし、伏線の部分が多すぎるとも思う。つうか、ちゃんと調べてないんだけど、このシリーズって完結してるのか? そもそもそんな完結とか話の本筋とか、そんなものの存在するシリーズだとは思っていなかったんですが。


 蒲生邸事件  宮部みゆき     うな

長編SF歴史ミステリードラマ。みたいな。SF大賞受賞作。
ストーリー。ひょんなことから二・二六事件の日にタイムスリップした浪人生、孝史は、いろいろあって現代に戻ってくる頃には歴史のことを真面目に考える大人になっていました。以上。
感想、大長編TPボンだった。以上。
だけで終わらしてもいいんだが、680Pも読んでそれはちょっとばかり淡白すぎるしもったいないような気もするのでだらだら書く。
まず、相変わらずうまい。文は平易で読みやすい。架空の存在である蒲生邸は立地条件からしてリアリティにあふれ、人物の配置には無駄が少なく、人間をただの善人、悪人に隔てない視線は大人であり、事件の進行はこちらを飽きさせないように工夫されており、どこをとっても巧みな作品である。
それが胡散臭いし、物足りねえ。
なんつうの? 手が行き届きすぎてるんだよな。そのせいで逆に人間味かけるというか。NHKで放映予定ですか?みたいな。行儀が良すぎるんだよな。
タイムスリップしたりしてSF層ゲット。殺人事件起こしてミステリー層ゲット。戦前戦中話入れておっさん層ゲット。恋愛話や人情話なんかも入れて一般層ゲット。みたいな、なんつうのかなあ、素直になれないのは何故?
多分、主人公に感情移入できぬからだ。
ま、この物語での主人公はただの狂言回し、語り部でしかないのはわかりますよ? にしたってね、いじけた浪人生のはずが、えらぶった中年や華族の息子と平気で話したり、探偵の真似事したり、たった数日で六十年前の世界に溶け込みすぎちゃうか? べつにあまり魅力的にも感じないヒロインへの淡い想いも、物語を円滑に進めるためには必要であったが、主人公の気持ちは全然伝わってこないし、作者の都合を感じざるを得ない。タイムトリッパー平田がこの時代を選んだ理由は「それってどこの時代でもいいし、ぶっちゃけ能力使わなければどこでも同じじゃん」だし、なんというのかな、作品のどこにも「止むに止まれぬもの」が感じられないんだよな。
ぼくはその「止むに止まれぬ」という感情こそが美醜であったりする、なんて思うんだけどね。
つまり、しないでもいいのにどうしてもしてしまうこと、というのは、美しいか醜いかのどちらかだ、という。
宮部みゆきの作品には、美というものが一切抜け落ちているんだよな。外見的なものもそうだし、精神的なものにしてももっとそう。まあ、美というのは醜につながるし、それゆえ好き嫌いが分かれることになるから、大衆受けを求めるなら、美なんて邪魔なものなんだけどさ。しかしね、どんなに深く、大人の視線で人の心理を分解してみたところで、そこに思わず目を背けたくなるような醜さがなければ共感もできないし、醜さがなければかくありたいと憧れる美も生まれない。
うん? いま書きながらはたと気づいたが、俺にとって醜さとは共感を呼び、美しさっていうのは憧れを呼ぶんだな。自分的メモメモ。 ともあれ、他人事なんだよな。要するに。宮部みゆきの作品てさ。
読んだ人間にさ「あなたも歴史のことについて考えたり、未来について考えたりしてがんばっていこうじゃありませんか」的に語りかけているような雰囲気までがさ、どうにもよくできた既製品みたいでさ。そこに書き手の吐露は含まれないし、ましてや読み手の感情なんて物語には関係ないというかさ。なんつうのかね、俺が読まないでもこの物語は立派にどこかでやっていけるだろう、みたいな。わけわからんね。でも、とにかくそういうことなんだよ。
距離があるんだ。おれと作品との間にさ。なまじ向こうがある程度近づいてきてくれているだけにさ、これ以上はこっち来るなって感じで。書き手にコントロールされているみたいで。
宮部みゆきは実力のある小説家だ。それは事実だ。間違いない。
けど、じゃあ彼女の「止むに止まれぬ感情」って何処にあるの?
「彼女にしか表現できないこと」は? 結局彼女ってなんなんだ? みたいな。 最初にTPボンって云ったのも、つまり藤子Fの絵柄のように、つるっとして無難すぎて、つかみ所がないって思ったからだし(F先生の場合、あの画風で多彩な作風をもっているからそこが逆に不気味でいいんだけど)うーん、なんつうのかな?
結局、宮部みゆきって小説うまいけど、なんで小説書いているの? ってことかな。
 

 トリガーマン! 1 2/5  火浦功   うな

ハードボイルド・ギャグ・SF。連作短編集。
くだらない。さして目新しくない(まあ、連載されていたのが87年らしいが)別にそんなに笑えない。
が、小説において、これだけハイスピードな作品はそうはない。あっちこっちの描写をすっとばしておきながら、ストーリーをきちんと理解させるということは、はたから想像するよりはるかにむずかしい。
そういった文章が書ける、という一点に置いて、火浦功は稀有な作家だと思う。
が、寡作なのがいただけない。何か一作、代表作となる長編シリーズを続けていたら、それだけでひとかどの作家にはなりえたと思うのだが。マニア向けだけどな。
くだらないと云ったが、ハードボイルドな美形傭兵が、ギャグ集団に巻き込まれて困惑しつつも、結局一番変なのは本人、という設定はわりといいと思う。いつだってハードボイルドのキースはわりと可愛い。すぐに匍匐前進はじめるところとか。
だから、もっと長く続けていればねえ。なんでやめちゃうんだろ?(多分、雑誌が潰れたからだと思うけど)


 永遠のジャック&ベティ  清水義範   うな

変な作品ばかりの短編集。コメディとか実験小説気味。
永遠のジャック&ベティ……アイデアは面白い。
ワープロ爺さん……アイデアは面白い。
冴子……アイデアは面白い。
インパクトの瞬間……アイデアは面白い。
四畳半調理の拘泥……アイデアは面白い。
ナサニエルとフローレッタ……アイデアは面白い。
大江戸花見侍……アイデアは面白い。
栄光の一日……アイデアは面白い。
総評……アイデアは面白い。


 喜びは悲しみのあとに  上原隆   うなぎ

ノンフィクション・ルポルタージュ・コラム、とか云えばいいの?
作者が有名無名を問わず、市井の人々にインタビューを行い、それを基に小説っぽく仕上げている作品。
作者の訪れた人々はさまざまで、障害をもつ息子を無くした作家、戦力外通告をされたプロ野球選手、人形変身願望の男、キャッチセールスマン、実演販売業者、元いじめられっこ、などなどなど……
人生の辛酸をなめたかれらの姿を、同情するでもなく憐れむでもなく称えるでもなく、いたって静かにただただ描写している作者の視線が、ここちよい。
人生にはいたるところに落とし穴があり、世界にはさまざまな底辺がある。だがそれは底辺ではなく、自分とは別の、しかし生きた人間の住まうフィールドに過ぎず、人はただ、人として生きていくしかないのだな、とそう考えさせられる作品。
傑作と呼べるような粒の大きい作品ではないが、一遍は短いので、ふとしたときになにげなくページを開くとよい作品だろう。
みんな、生きているのだなあ。
たまには普通のいい話も読みますよ? ぼくは。


 \  古橋秀之  うな

ライトノベル。偽中国の武侠小説もどき。
えーと……これ単発ものじゃなかったの?
あまりにも見事な構成。
才能溢れるが未熟な主人公二人の出会い。かれらを導く師と兄弟子の登場。不吉な敵の影。突如訪れる故郷の崩壊。はじまる逃走劇。強大な敵の追跡と死闘。敗北と束縛。脱走、圧倒的な力で繰り広げられる師と敵との対決。退却する敵。深まる主人公たちの絆と、二人の出生の謎。そして真の敵が顔見せ。つづく。
ここまででおよそ90〜120分。……完璧だ。完璧なまでの先行体験版の構成だ……。「続きは買って確かめてね☆」という声が聞こえそうなほど、作品の魅力をわかりやすくつめこんである……
で、本編は?
本編なきゃダメだよ〜、みたいな。
まあ、そうねえ。わざとやってる胡散臭い四字熟語の必殺技の数々は嫌いじゃないし、テンポが必要以上にいいのも悪くない。つうか、だからおれは本編を買ったつもりだったのに、なんで体験版なんだよ! アークザラッド1をやった時のような屈辱を感じたよ! ええ、ロンドは体験版で買うのをやめましたよ! でも今はむしろちょっと欲しいよ!
主人公が「少年の姿をした少女」であることがわかるのが作品後半なのに、表紙で完全に萌えキャラにされているのはどうかと思った。おかげで一発でわかったし。

 不連続殺人事件  坂口安吾   う

ミステリー。長篇。
大丈夫! 新文学の旗手、坂口アンゴルモア先生のミステリーだよ!
思ったより普通だった。
なんというか、普通だった。
わりかし普通だった。
うーん、一部で有名な古典ミステリーだし、あのアンゴルモア先生だし、なんかとてもすごい仕掛けでもあるのかしらとか思ったけれど、まあ時代が時代だし、わりとオーソドックスなよくできたミステリーじゃねえの?
ただれた人間関係の数々がアンゴルモアテイストといえばアンゴルモアなのかもしれないけれど、ぼくあんまりアンゴルモア先生の作品読んでないしね。でも悪くないと思うよ、アンゴルモア先生は。あんがい読みやすかったし、へんなところをカタカナにするのがユメQみたいで。でもそんな堕落しないでもいいんだよアンゴ。ごめんよアンゴ。最後にアンゴコールでしめるよアンゴ。
アーンゴ! アーンゴ! アーンゴ!


 ブギーポップ・バウンディング ロストメビウス  上遠野浩平  うな

ライトノベル。長篇シリーズの13作目。
このシリーズは大筋を完結させるのは諦めて、この世界観を使ったスタンドバトル的な小話をつづけることになったのかな? と思っていたのだが、なにやら前巻から本筋が進行しているような感じで、とても意外。が、その分、単発物としてみた場合、意味がわからないし、オチは「いろいろとつづく」だし、不満はある。
過去の登場人物が登場したり名前だけ出てきたりして、長篇シリーズ的な面白さはあるものの、はっきり云ってあんまりちゃんと覚えていないせいで、混乱すること甚だし。さらに、一巻で登場して以来、全然でてこなかった「宇宙人みたいなの」が、実にひさしぶりにフィーチャリングされていて驚いた。
だって、一作目の時点は、新人賞受賞作だから、続ける予定なんかなかったため出したもので、二作目以降につづけるために、あれは「なかったこと」にされたと思い込んでたからなあ。
でも、どうやら本筋に関係のある設定みたいで、なんかうっちゃられたままのイマジネイターも出てくるし、なんかこう「あれ?もしかして完結させる気あるとか?」なんて思ってしまった。
全然テキトーにしか把握していないが、いま現在のシリーズの登場人物関係の錯綜ぶりはまさに戦国乱世なみで、もしあの巻の主役この巻の主役がストーリーの端々にきちんと登場し役割を果たし、張りつづけてきた伏線の数々に一応の納得のいくオチをつけて物語を完結させたのなら、これは一大巨編といっていい作品になるだろう。
まあ、無理だろうけど。
でも「もしかしたら」という気持ちにはさせてくれたので、その意味では本巻を評価します。
にしても、いまさら云うのもなんだけど、ネーミングセンスはもうすこしなんとかならんものか。変な名前ばっかで逆に覚えにくくて、過去作のキャラが混じる混じる。変な名前って覚えやすそうでいて、「変な名前」という印象で一緒くたになるんだよなあ。
 

 宇宙生命図鑑  小林めぐみ  う

SF。とかなんとか。ライトノベル風味みたいな。
イラストがなんかエロイな。エロイよ兄さん。ラクガキ王国エロイよ。それはどうでもいいとして。
前半はね、面白いかもとか思ったけどね、長編シリーズ予定ならそう云ってくれないとね、困るじゃないのよね。
うーん。
うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
  人間が雌しかいない惑星での、存在したかもしれない雄の謎をめぐって、学者と原住民とのゴタゴタに、刑事に追われる謎の青年神父としゃべる猫が加わってばたばたとしつつ、そんなこんなでよくわかったようなわからないような感じで終わるのですが、うーん。
雌雄が揃っていないので恋という概念がない世界で恋に落ちた二人の話は、まあわるくないんだけどさ。なんだろうな。シリーズになった場合の主役となるであろう謎の青年神父たちの話がわりと邪魔くさい。もっとさりげなく絡ませればいいものを。
ま、なんかどうでもいいか。
恩師に恨まれていたことを知り「こんなことなら来るんじゃなかった」と嘆く主人公に、猫が「面倒くさがるな」「なにを」「体験することをだ」という場所だけ、まあよかった。
それぐらいでいいか。


 本気になれない二死満塁 フルメタルパニック  賀東招二   うな

ラブコメ短編集。
ラブコメだった。想像以上にラブコメだった。どうしようもなくラブコメだった。
んー。乙女チックなラグビー部を軍隊式に鍛え上げる話はわりと面白かった。フルメタルジャケットのパロディになってて。
でもなあ、なんかあんまり主人公の宗介が可愛くないんだよな。アニメだとわりかし可愛かったのに。
思うにアレだな。ヒロインに明確に恋愛感情持っているのがいけないんだな。戦場という、死と別れが日常の世界に生きていたために恋愛という概念の理解できない男が、日常から戦場にひきずり出された少女に惹かれている、というのがミソなんだろうけどな。あんがい普通に素直になれないラブコメカップルしてるんだよな。
まあ、とてつもなく早く読めるから、気軽に読めるのは悪くない。


 自慢にならない三冠王? フルメタルパニック! 賀東招二   うな

ラブコメ。短編集。
あらゆる意味で前巻と大差無し。


 黄金色の祈り  西澤保彦  うなぎ∈(゚◎゚)∋

ミステリー。青春小説。
はじめに云っておくと、これは過剰評価だ。無駄な部分は多いしミステリーとしては中途半端だしフェアじゃないしカタストロフもカタルシスもない。
ただ、読んでいて心が動いた。
発言にネタバレが含まれるが、これは一人の凡庸な男の懺悔の物語だ。自分を世界の主役だと信じ込み、都合の悪い現実にはささいな欺瞞を重ね、ただちんけな自意識を守ることに必死で、人の想いに気づかなかった幼さという罪への懺悔。
書きたいことはいろいろあるのだが、どうもうまい言葉が見つからずに、まとまらない。ヒーローであることを信じたために、ヒーローであることから遠ざかってしまった男、とでも云えばいいのか。だが、自分になんらかの物語が降ってくると信じることは、それほどに罪か? だれだって、場違いな夢くらい見るではないか。拙いまずいやり方をしてしまうことだって、あるはずだ。
西澤保彦は、だれにでもある浅ましさを、ごまかさずに書ける人だ。
〜〜にさえなればすべてが解決する。そう思いつづけてきてた主人公。トランペットさえうまくなれば。オーボエさえできれば。大学にさえ行けば。アメリカにさえ行けば。詩人にさえなれば。童貞さえ捨てれば。日本にさえ帰れば。ときに逃げ、ときに失望し、最後に本気ですがった作家になったときに残ったのは「こんなはずではなかった」という想い。40を過ぎ自問する「自分が欲しかったもの」

「欲しかったのは……黄金色の夢。
 スポットライトの中で、光の残像をふりまく黄金色のトランペット」

だがそれすらも本当の自分ではなかったと気づいたときに、この物語は幕を閉じる。
作者の実体験を豊富に盛り込んだであろうこの作品は、若さと苦さに彩られたかけがえのない作品だ。
ああ、信じてよかったな。と思う。なにを、と聞かれれば、読むことをだ。
だれかが書いているのだ。そして、私が読んでいるのだ。
それは、一つの小さな奇跡だと思う。
 

 七回死んだ男  西澤保彦  うな∈(゚◎゚)∋

ミステリー。長篇。
うん、まあ、そんなたいそうな話じゃないんだけどね。「あっちのオチかなー」と思っていたら、そっちのオチで「そっちかよ!」と気持ちよく騙されたので、一応うな印つけとくか、みたいな。
設定がね、まあ好きだってのもある。時々、時間のループにはまってしまう体質の主人公が、ループの間に起こった殺人事件を未然に防ごうとするのだが、どうしても事件が起こってしまう、という話で、一周ループするごとに、だんだんと新たな真相がわかってくる、ってあたりがいかにもゲーム的で、そこがよかった。
話がずれるのだが
やっぱやめた。書くのだるくなった。ずれるのやめた。
そんなわけで、悪くない話。ということでしたとさ。


 見知らぬ妻へ 浅田次郎  うな

「うー読書読書」
いま読む本を求めて全力疾走している僕はふらふらと生きているごく一般的なNEET。強いて違うところを挙げるとすれば小説に興味があるってとこかナー
名前は浜名湖うなぎ。
そんなわけで帰り道にあるブックオフにやって来たのだ。
ふと見ると本棚に一人の作家の本が入っていた。
ウホッ! いい話……
そう思っていると突然その本は僕の見ている前でページを開きはじめたのだ……!
「読まないか」
そういえばブックオフは100円の本があることで有名なところだった。
いい話に弱い僕は誘われるままにホイホイと買って帰っちゃったのだ。
彼……ちょっとおっさんくさい作家で浅田次郎と名乗った。
短編小説も書きなれているらしく、家に帰るなりぼくはすぐに読みはじめてしまった。
「よかったのか、ホイホイ買っちまって。俺は映画の主演だってかまわないで高倉健にしちまう人間なんだぜ」
「こんな本読むのはじめてだけどいいんです……僕……浅田さんみたいな安い本好きですから……」
「うれしいこと言ってくれるじゃないの。それじゃあとことん泣かせてやるからな」
言葉どおりにかれはすばらしいテクニシャンだった。ぼくはというと涙腺に与えられる感動の波に身をふるわせてもだえていた。
しかし、そのとき予期せぬ出来事が……
「うっ……で、出そう」
「ん? もうかい? 意外に涙もろいんだな」
「ち、ちがう……実はさっきから汗が出て風呂に入りたかったんです。家に帰ってきたのもそのためで……」
「そうか……いいこと思いついた。お前、風呂の中で続きを読め」
「え〜っ!? お風呂の中でですかァ?」
「男は度胸。何でもためしてみるのさ。きっといい気持ちだぜ。ほら、遠慮しないで入ってみろ」
彼はそういうと上質紙にまとった表紙を脱ぎ捨て、たくましい背表紙を僕の前につきだした。
文庫本を読みながら風呂に入らせるなんて、なんて人なんだろう……しかし、彼の安く買った値札を見ているうちに、そんな本を捨てるようなことをためしてみたい欲望が……
「それじゃ……やります……」
クン……
ズ……ズズ……
ニュグ……
「は……入りました……」
「ああ……次はシャワーだ」
「それじゃ出します……」
シャーッ
チュチューッ
「いいぞ。本がどんどん濡れていくのがわかるよ。しっかりとしおりのページを閉めとかないとな」
「くうっ! 気持ちいい……!」
この初めての体験は室内読書では知る事のなかった感動をぼくにもたらした。
あまりに激しい感動にシャワーを終えると同時に僕の髪はシャンプーの海の中であっけなくキューティクルを取り戻していた。
「このぶんだとそうとう風呂に入ってなかったみたいだな。本の中がびちょびちょだぜ」
「はぁ……はぁ……」
「どうしたい」
「あんまり気持ちよくて……こんなことしたの初めてだから……」
「だろうな。俺も初めてだよ。ところで俺の壬生義士伝を見てくれ。こいつをどう思う?」
「すごく……ぶ厚いです……」
「ぶ厚いのはいいからさ。このままじゃおさまりがつかないんだよな」
「あっ」
「今度は定価買いだろ?」
「ああっ!!」
「いいぞ……定価の10%の印税が入ってきやがる……!」
「出……出る……」
「なんだァ? いま読み始めたばかりなのにもう泣くってのか? 感受性抜群なんだな」
「ちっちがう……!!」
「なにィ? 今度も100円の出費だァ? お前、俺をダイソー文庫と間違えてんじゃねえのか!?」
「しーましェーン!!」
「しょうがねえなあ。いいよ、いいよ。俺が安売りしてやるからそのまま揃えちまいな。
2800円でコンプリートするのもいいかもしれないしな!」
「えーっ!?」
……と、こんなわけで、僕の初めての浅田次郎の本はびしょ濡れな結果に終ったのでした……



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